インタビュー
地域、取引先に寄り添う事業展開を進める医薬品卸
明祥株式会社
出典:「最新医療経営 PHASE3」2024年2月号(株式会社日本医療企画)
明祥株式会社は医療用医薬品卸事業を軸に、化成品卸事業、メディカル・栄養・在宅事業、自治体との協働など多角的な事業展開を進めている。医薬品卸事業では本社の所在する石川県をはじめ、富山県、福井県の北陸3県で圧倒的なシェアを誇り、取引先も大学病院から診療所、調剤薬局までと幅広い。その背景にあるのは、配送業務の枠を越えた「取引先に寄り添う」事業運営がある。
企業データ | 明祥株式会社
石黒家第5代福久屋新右衛門が「牛黄圓」を創製した後、寛文10(1670)年に加賀藩主の御典医から門外不出の三味役を伝授され、調合販売が官許された。1963年に福九屋石黒傳六商店、折本薬局、坂本薬局の卸部門を母体にカサマツ株式会社と業務提携、明希株式会社。2001年、北邦医薬と合併し明祥株式会社。06年、アルフレッサグループに参加。 |
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地域卸の雄はコロナ禍のワクチン配送でも存在感
明祥の医療用医薬品卸事業は北陸3県で43%のシェアに達する。業績は新型コロナウイルス感染症がまん延した初年である2020年度こそ前年を割ったものの、21年度以降は回復、安定した成長を続ける。伸び率も前年比5~8%増で、一貫して全国平均を上回っている。22年度の年商は1000億円を超えた。
こうした業績が続く背景として、川尻洋光代表取締役社長執行役員は、「お取引先である医療機関、メーカーに寄り添い、付加価値に磨きをかけて、『選んでいただける卸』を追求していることがあると思います」と語る。
北陸3県における医療用医薬品の安定供給に貢献するため、北陸では最大の物流センターを構えており、13年から物流センターの運用・システム・設備など21年まで3期に渡り整備を行っている。物流センターには医療用医薬品約1万6500アイテム、おおよそ26万ピースの在庫を保有しており、有事の対策としても視野に入れ民間のヘリコプター会社とも契約をしている。
この姿勢はコロナ禍でも貫かれた。同社は北陸3県でコロナワクチンの配送事業を担ったが、多い時で週4日、少ない時でも週2回は接種センターに配送していたという。文字どおりの「寄り添う」卸事業を展開している。
SPD事業で進める現場の業務支援強化
川尻社長は「医薬品卸が果たすべき役割は配送業務だけではありません」とも強調する。同社が手がけるSPD事業にも、その一端がうかがえる。「従来は購買管理の代行というイメージが先行していたかもしれませんが、働き方改革もあり有資格者でなくてもできる業務はSPDスタッフが請負える体制も整えています」
同社のSPD運用はオーダーメイドであり、病院を中心に導入が進んでいるが、残薬確認の自動化に向けたAI機器の提案をするなど、バージョンアップに余念がない。
システムの充実だけでなく、スタッフによる提案力の強化にも磨きをかける。「機械の業務処理は確かに早いですが、病院様とのコミュニケーションが不可欠ですし、それによって何を機械に任せるかも提案する必要があります」(川尻社長)。たとえば医薬品の廃棄防止策を講じるには、期限切れなのか、破損なのか、混注後の廃棄なのか様々なケースがあり、医師・薬剤師・看護師の協力が欠かせないケースも出てくる。通り一遍のマニュアル対応ではとてもカバーできない領域にまで踏み込んでいるのだ。
服薬管理テーマに地域連携にも貢献
医療現場に踏み込んだ提案は、病院内にとどまらず、地域連携にも及ぶ。現在、同社はさまざまな医療機関の医師や薬剤師と連携し、トレーシングレポートの作成支援にあたっている。一般的にトレーシングレポートは保険薬局から病院に送付されるが、病院の医師が知りたい情報、とりわけ副作用の状況を端的に把握できないことがあった。そこで病院にとっても使い勝手の良いフォーマット作成を同社が支援し、医師→患者→保険薬局に繋ぎそれを用いて患者に確認してレポートするという取り組みを行っているのだ。
特にがん領域では在宅での服薬管理が重要になるだけに、こうした仕組みづくりは同社の重要テーマと位置づけている。「近年は効果が期待できる新薬が開発されていますが、服薬管理が今まで以上に重視されています。メーカーの思いを汲んで地域にお届けするのも私たちの役目だと思っています」(川尻社長)
「困ったら明祥」に向けて全MSの医療経営士取得へ
医療機関への支援領域が広がる一方で、医療機関経営のコンサルティングもその一つとなっている。同社が抱える約120人のMSほぼ全員が、医療機関をマネジメントするうえで必要な知識を身につけることを目的に運営されている「医療経営士」の資格を取得している。
「医療機関の困りごとならば何でも対応する」という姿勢から始まったものだ。同社のMSが医療制度や診療報酬も含め、医療機関経営に関する知識を十分に備えていれば、経営面での相談を持ちかけられても、その際に即答できるという考えがある。
「『持ち帰って確認します』より、即答のほうが先生方の信頼は大きくなります。『困ったことがあれば、まず明祥に相談しよう』と思っていただけることが理想です」(川尻社長)
こうした人材育成は同社の風土でもある。「マイプランボイス制度」は、全社員から業務改善や経費節減に向けたアイデアを募るもので、なかにはコピー用紙の購入先を変えることを提案した入社2年目の社員が表彰されたこともある。全社員に提案、そして成長の機会が用意されているのだ。
スタッフの底上げにも余念がない明祥。北陸ナンバー1医薬品卸の座はさらに盤石なものになろうとしている。