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24年度以降、デジタル活用を一気に、
相当なスピードで進める
働き方改革支援、薬の供給不足対応もデジタルで
アルフレッサ 代表取締役社長 福神雄介氏

出典:ドラッグマガジン2024年2月号(株式会社ドラッグマガジン)

 アルフレッサ ホールディングス(HD)の中核を担う事業会社であるアルフレッサ。2004年10月に福神、アズウェル、大正堂の3社が1つになって発足した医療用医薬品等卸売企業である。20年から代表取締役社長を務め、23年からアルフレッサHD の代表取締役副社長も兼務する福神雄介氏は、1976年生まれの年男。福神氏に社長就任からの3年半を振り返っていただくとともに、24年の展望を聞いた。

福神雄介(ふくじん・ゆうすけ)
●1976年6月27日生まれ。99年慶應義塾大学法学部卒業。2000年福神(現アルフレッサ)入社。
14年アルフレッサ執行役員営業本部営業企画部長、19年同社取締役常務執行役員ロジスティクス本部長。20年同社取締役専務執行役員ロジスティクス本部長、20年6月同社代表取締役社長(現職)、23年6月アルフレッサ ホールディングス代表取締役副社長(現職)。

21年度から取り組んできた会社の意識改革が実を結ぶ

──社長就任時の状況と目指してきたことをお聞かせください。

福神 当時、製薬業界が生活習慣病薬を中心とするブロックバスターによる売上追求から、スペシャリティ薬で収益性を高めるビジネスに変わろうとされている中で、卸売企業は売上やシェアに重点を置く従来のやり方を続けていました。このままでは時代の流れに取り残されるという強い危機感がありました。スペシャリティ薬中心の製薬業界で、私たち卸売企業が新しい役割を見つけて、次の時代に生き残っていく方向性を明確に示せば、この課題に答えを出せるのではないかと考えて取り組んできました。就任初年度は前年度の事業計画を着実に実行しましたが、新型コロナ感染症の影響もあり、当社も卸売業界全体も、業績がよくはありませんでした。
 そこで21年度は思い切って、減収増益という事業計画を立てました。増収だと増益、減収だと減益というこれまでの常識を壊し、社内の意識改革を図ったのです。減収増益は採算が取れるお取引を意味します。採算を度外視して売上を増やすような「続けられないこと」をやめるように徹底しました。その結果、個々の医薬品の価値と安定供給に必要なコストを踏まえた価格による販売ができたと同時に流通改善につながったことで、社員が「私たちは正しいことをやっている」と思えるようになって、22年度から成長基調に戻すことができました。
 医療用医薬品卸売業は業界特有の制度的枠組みに固く縛られているところがありますが、「私たちはこうしていきます」とはっきり宣言した上で舵を切り、業界全体の発展と安定性に寄与し、お得意さまサービスの向上に焦点を当てる姿勢を示した上で、新たな技術やデジタルソリューションの導入等をしていきたいと考えました。一方、医薬品開発が、低分子治療薬からスペシャリティ薬にシフトする現状にマッチした新しい事業構造への転換は簡単にはいかないものです。これまで売上やそのシェアを一生懸命高めてきた中で、「採算が取れないお取引はお断りしよう」と言い出したのですから。周囲には「どうかしている」と思った人もいることでしょう。当初は反対もありましたし、さらに想定外のコロナ禍もあり、環境的には一番厳しい時期でした。やりきってくれた社員には、感謝しかありません。
 社長の交代は、意識改革や戦略変更のチャンスだと思うのです。私は、組織の意識・行動改革を行うに当たり、なぜ減収でも構わないので個々の医薬品の価値に見合った価格で販売するのかの理由を精緻に考え、誰にでもきちんと説明できるように準備しました。1年以上かけて、あらゆるコミュニケーションチャネルを通じて、幹部だけではなく一般社員とも対話し続けたことで、「今までとは違うけれども、社長が代わったのだからしょうがないか」と社員も腹落ちしやすかったのではないかと思います。
 収益重視の考えが社内に根付いた22年度の事業計画は「微増収増益」にしました。単に「増収増益」と表現すると、せっかく右に切った舵が左に戻ってしまうのではないかと考えたのです。迷ったときは売上増加ではなくて、採算性や継続性なのだという判断軸を皆に持ってもらいたかったのです。この大きな判断軸をはっきりさせて、組織に浸透させるのは私の仕事です。この1年間、判断軸をはっきり示し続けたことで、社員も「もう後戻りはないな」と思ってくれたでしょうし、お得意さまからも個々の医薬品の価値についてご理解をいただけるようになったことで、社員も自信を持ち始めた22年度でした。今年度は新たな展望に向け、持続可能で健全な成長ステージへと舵を切りました。市況にも助けられ、24年3月期の売上高は6%以上の成長を見込んでいます。

対面にデジタルを加えた新しい仕事は社会課題を直接解決

──現在の課題認識は。

福神 課題は2つ。1つはDXといわれるデジタルの活用です。当社は早くからiPad を導入し、オンライン会議などもコロナ前から普通に使いこなしてきました。まずは意識改革を優先する中、新型コロナもあってDXが勢いよく進みました。24年度以降はデジタル活用を一気に、相当なスピードで進めていきます。現在準備はほぼできており、あとはやりきるだけです。
 もう1つは、医薬品の供給不足という課題が長期化し、かつ広範囲になってきたことです。まず、薬価が安いため製造設備が古くても投資ができず、低薬価品である低分子のジェネリック医薬品の供給不足が起き、拡大・長期化しました。工場新設には3年はかかるでしょうから、少なくとも5年くらいは解決が難しいのではないかとみています。加えて、世界的に高薬理活性高分子薬の供給不足が顕著になり、バイオ医薬品が足りていません。こちらは大きな需要の伸びに対して生産能力の増加スピードがアンマッチを起こしたことによる供給不足です。この2つの供給不足はしばらく続きます。医療現場に直接影響し、人命にもかかわる問題ですので優先して対応していきます。

──卸として、薬の供給不足にどう対応しますか。

福神 バイオ医薬品を少ない流通在庫で安定供給するためには、データの活用や医療機関の実需を把握する、そして症例数に応じた数量だけ供給するといったミクロのマネジメントが必要になります。一方のジェネリック医薬品は、私たち卸売企業が関係者に協力を要請しつつ、製造能力を保有する製薬企業の製品を販売することなど、川下から川上に向けて調整効果を上げていくことにより、少しでも現在の状況が緩和するように働きかけていきたいと考えています。
 これらの解決には人間の力だけでは難しく、デジタル化が不可欠です。24年度から医療業界の働き方改革が始まりますが、デジタルを活用した働き方改革のお手伝いと、医薬品の供給不足に対するソリューションの方向性は非常に近しいものがあります。
 例えば、在庫の管理、発注、症例別の必要数量の算出は、デジタル化しないと相当な人手がかかります。当社は、NOVUMN(ノヴァム)という、保冷品かつ高薬価な医薬品である特殊医薬品のサプライチェーン全体の最適化を目指す仕組みを病院に提供しており(図表①)、これにより、急患用以外は、病院在庫ゼロでの運用が可能になります。NOVUMN はPHCさま、富士通ジャパンさまと共同で開発し、21年3月に「個別化医療・医薬品トレーサビリティ協議会」を設立し、全ての医療用医薬品卸売企業さまに開放することにしました。開放することなく、卸売企業の一社だけが納品した分をいくら最適化しても、医薬品流通全体の在庫縮小や院内の効率化につながりません。投薬のスケジュール化が可能な薬剤の一括管理ができてはじめて、お得意さまの効率性の向上や流通全体の課題解決につながると考えたのです。
 当社はデジタル化に関して、“ラストワンメートル”になることを目指しています。画面と先生の間、本当に臨床現場で使えるところまでデジタル化していく必要があります。ラストワンマイル(1.6キロメートル)では遠く、ラストワンメートル。スマホですとラスト50センチや30センチといったところでしょうか。私たち卸売企業が現場にリアルに入り、フェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションができ、かつデジタル化の支援までさせていただくとしたら、それが卸売企業の新しい役割となり、社会課題の解決に直接的につながると思います。
 アメリカでは、オバマケア以降、積極的な医療介入が医療費を減らすということが明らかになりました。デジタルを活用し、オンライン診療や疾患・健康管理のアプリを活用して、プライマリ・ケア部分の医療効率を上げ、浮いたリソースをスペシャリティや難病といった領域に振り向けています。
 日本も同様です。生活習慣病から新しい医療課題に向けてリソースを移行する必要があります。しかし、生活習慣病の患者さまはいらっしゃらなくなったわけではないので、デジタルで省力化し、そのリソースを新しい疾患や在宅医療のような社会課題に振り向けなければいけません。
 また、デジタル化には大きな医療リソースの変更が必要です。結果的に、医師の先生方に時間の余裕ができ、患者さまもより効率的に医療が受けられ、待ち時間がたとえば4分の1で済むようになったなどとなってはじめてデジタル化、働き方改革なのだと思います。当社はその重要な要素をこれまで集めてきました。「準備はほぼできている」のです。
 あとは、それを社会実装する。坂道の上りはきついですが、上までいけば、後はコロコロ転がっていくように、デジタル化はあるところまでいくと自然に進んでいきます。そこまでは、誰かが重い石を持って登らないといけない。当社はそれをあえてやります。やるからには私たちも相当なリソースを割かなければいけないので、23年度までに意識改革をしっかりと行い、本年度からはかなりの覚悟を持ってデジタル化を進めます。
 医療DXでは、医療のプロセスが変わる必要がありますが、プロセスを変えるのは私たち卸売企業ではなく医療に携わる皆さまです。私たちの役割はDXのお手伝いですので、DX(変革を意味するトランスフォーメーション)とは申し上げず、「デジタル」の活用とか「デジタル」ツールのご提供という表現をしています。
 「医療プロセスが変わり、医療効率化の結果が出るところまで応援します」と自信を持って言える体制の構築がもうそこまできています。「来期からデジタルをやる」と宣言して果敢に未来を切り拓いていきますが、これは意識改革に要したこれまでの3年間よりも長く時間をかけるかもしれません。

図表① 個別化医療支援プラットフォーム「NOVUMN」のイメージ

医薬品卸の「機能」を周辺に少しずつ広げていく

──24年度の貴社の取り組みを伺いました。保管や輸配送の部分で新たな展開はありますか。

福神 21年から静岡県藤枝市で完全免震の物流センターが稼働中です。GDP ガイドラインに準拠した厳格な温度管理と衛生管理、RFID 導入等によるトレーサビリティ向上、建物全体に免震構造を採用したBCP対応などの特徴を備えています。このたび、アルフレッサグループが掲げる「地域社会への貢献」の一環として、20フィートのコンテナを改造して薬局をつくり込んだ全国初の「災害支援コンテナファーマシー」を同物流センターに設置しました。中には分包機をはじめとした調剤機器が全て入っていて、災害発生後に藤枝市の要請を受けて、当社が医薬品を充填し、救護所まで輸送します(図表②)。医薬品を届けるわれわれの機能を広げ、災害時における医療提供活動を支援していきます。
 茨城県つくば市に建設中の物流センターは24年5月に稼働開始予定です。医薬品卸という「機能」を周辺に少しずつ広げていこうと思っています。

図表② コンテナファーマシー運用のイメージ

──24年辰年の年男である福神社長。個人としての目標は。

福神 私はアナログ人間で、例えば、手帳は紙です。デジタルネイティブ世代に勝てないのは分かっているので、デジタル戦略も、どう実現するかについては一切口を出しません。でも、放っておくとどんどん置いていかれるので、デジタルに積極的にチャレンジしたい。会社としてデジタルを進めると宣言している限り、「先づ隗より始めよ」で、還暦まではあがいてみようと思っています。

──お母さまが「ホトトギス」で学んだ俳人で、福神社長も俳句を詠むと聞いています。一句お願いしたいのですが、俳句とデジタルは両立するものでしょうか。

福神 今、句会の主流はLINEですよ。歳時記も句帳もスマホのアプリ、という人も多いです。俳句は現代俳句と古典俳句に分けられ、現代俳句はよくも悪くも言葉遊び。言葉そのものを切り離して、五七五で遊びます。一方、古典俳句はデッサンです。私の俳句は古典俳句で、情景や季節などを切りとって描きますが、五七五では描き切れません。そこで、表現しきれない部分を季語の持つイメージや印象、パワーに頼ります。でも、詠み手が抱く季語のイメージと読者が持つ季語の印象は同じではないので、解釈がずれる。そこが古典俳句の面白さです。一句、承知しました。

──ありがとうございます。兼題はお任せいたします。

●年明けに三句を頂戴しました