インタビュー

アルフレッサ ヘルスケア西田 誠 代表取締役社長
DX 時代に即したコンサルティング可能な卸目指す
10年後を見据え 今春から“ 西田体制” が始動

出典:ドラッグマガジン2023年7月号(株式会社ドラッグマガジン)

アルフレッサ ヘルスケアの代表取締役社長に、4月1日付で西田誠専務取締役が就任して3カ月が経過した。前任の勝木尚氏(現代表取締役会長)は、同社の前身である丹平中田時代を含めると14年間にわたって経営トップに君臨しかつ増収増益の優良企業に育て上げてきただけにプレッシャーがかかるが、「自分なりに勝木体制のもと全力で取り組んできた自負がある」と気負った様子はない。それどころか、DX、AI 時代をにらんだ卸の新しいビジネスの取り組みにも意欲的だ。前職時代の営業本部長職を兼任する二足のわらじとなるが、10年後を見据えた同氏のトップマネジメントがどう開花するか注目される。
(聞き手=株式会社ドラッグマガジン 取締役編集局長・西 健一郎)

にしだ・まこと●1962年11月5日生まれ、60歳。大阪府出身。1980年3月正強高等学校(現奈良大学附属高等学校)卒業後、日本商事(現アルフレッサ ファーマ)入社。2010年4月シーエス薬品(現アルフレッサ)入社、2011年11月10月アルフレッサ ヘルスケア入社。2019年4月同社取締役専務執行役員営業本部長、2023年4月より現職。趣味はゴルフ、自転車での散策、カメラのほか、2級小型船舶免許をもつなど多彩。好物はお好み焼き。

物流業務からキャリアをスタート5つの会社変遷を経てトップへ

──代表取締役社長ご就任、おめでとうございます。貴社の前身である丹平中田から現在のアルフレッサ ヘルスケアへの変遷、業容をずっと傍らで見てきた当方にとって、西田社長のご就任は感慨深い思いを感じます。最初に内示を受けたときは、どのようなご心境でしたか。

西田 正直申し上げますと、最初は「えっ、私ですか」と思わずつぶやいてしまいました。こんな大規模な会社の社長になるとは夢にも思っていなかったので、本当に驚きました。

──かつての関西の名門企業、日本商事の入社から西田社長の薬業人生がスタートするわけですね。

西田 日本商事、アズウェル、アルフレッサ、シーエス薬品。会社が変わるたびに早期退職を目の当たりにしてきました。私が運よく今日まで残っていったのは、年齢的にちょうどよかったからではないかと思います。

──日本商事時代からヘルスケア畑だったのですか。

西田 入社して10年間は物流業務に従事していました。実は私は若いころ、人と話すのが苦手で、営業には向いていないと思っていたのです。

──誰も信じませんよ(笑)。

西田 物流センター勤務時代はちょうどマテハンが導入されはじめた時代で、いい勉強をさせていただいていたのですが、そうこうしているうちに、医家向けかヘルスケアのどちらかを選択して営業へ行けとの命令がありました。当時のヘルスケア事業は赤字で不採算事業だということは知っていたのですが、むしろ面白そうだなと思ってヘルスケアのMS を選択したのです。やってみるといろいろな薬局薬店、ドラッグストア(DgS)の店主とお目にかかって刺激を受けることが多く、やればやるほど面白いなと感じましたし、売り上げもどんどん伸びていったことを今でもよく覚えています。

──西田社長の現在の出発点となったわけですね。そして先ほどお話があったように、5回も“戸籍”を変えながらついに経営トップに上り詰められました。まさに波瀾万丈の薬業人生ですね。内示を受けたとき、プレッシャーは感じませんでしたか。

西田 本当にまさかここまで来るとは思っていませんでした。
 ただ、私は勝木現会長のもとで9年間執行役員として、あるいは営業責任者として120%の仕事をしようと思って働いてきたという自負があります。

 併せて、役員の一員として経営の中身、在り方についても関わってきましたし、そういう意味においてはプレッシャーを感じることはありませんでした。
 しかし、社長交代の事務手続きをしている過程で、全国各地にある支店・センターの代表者名を「勝木」から「西田」へ変更するよう求められるような局面になってからは、「やっぱり代表責任は重いな」ということを痛感しはじめ、眠れないときもありました。

人材への投資・育成、働き方改革は経営の重要ミッションの一つ

──社員への“第一声”は何とおっしゃいましたか。

西田 今までやってきたことは間違いなかった。これを全社員で力を合わせて磨き直してもっといい会社にしよう、という話をしました。継続と改革を旗印に心機一転、新しい気持ちでやろうということです。
 そのためには、新しい杭を打って古い杭を入れ替えることも必要だと申し上げました。
 加えて、今在籍している社員もいつかは定年を迎えていろいろな形で退社していくことになるわけですから、「この会社で定年まで働いてよかった」と皆さんに思ってもらえるような会社にしたい、というようなことを申しました。

──西田社長のお人柄が如実に表れているお言葉ですね。

西田 そのためにはより風通しのよい会社にしたいので、「私は裸の王様にはなりたくない、意見があったら遠慮なく発言、発信してほしい」とも伝えました。

──経営トップの率直な言葉は社員の皆さんにも響いたでしょう。

西田 言い尽くされた言葉ですが、やはり企業は人です。何にトライ、チャレンジするにも最終的には人です。そのためには人材への投資・育成は企業経営の絶対条件だとあらためて感じています。会社の評価は、従業員満足度がいかに高いかにかかっていて、それをウェルビーイングの観点から高めていくことが企業経営の要諦でしょう。

──エンゲージメント経営ですね。よく理解できます。

西田 私自身、営業畑でずっと働いてきたので商品周りのことはほとんど知っていますが、働き方改革に関する部分では正直、あまり関わってこなかったので、自省も込めて今後、経営トップとして取り組まなければならない重要ミッションの一つだと考えています。

従来の仕組みの在り方見直し“新しい杭”を打つ

──勝木会長との役割分担は。

西田 経営全般に関わっていただくのは当然のことながら、商品開発に注力いただいております。
ご承知のように、当社にはSP(セルフプリベンション)商品と称している数多くの専売商品があります。既存のSP 商品は、勝木会長が一人で見つけ出して商品化したものばかりですが、今後は今まで以上に商品開発に注力していただいて、それをわれわれが営業の現場に落とし込み販売につなげていくという連携プレーの構図を描いています。

──勝木会長はもともと、ピジョンの営業責任者として辣腕をふるっておられたので、まさに適任ですね。

西田 この連携プレーのメリットですが、勝木会長は親会社であるアルフレッサホールディングスの役員も兼務しています。調剤薬局においては、厳しくなる一方の調剤報酬改定や薬価引き下げを伴う改定が毎年あり、調剤事業オンリーの経営がかなり厳しくなっているため、その対応策の一環で、物販にも注力していこうという動きが顕著になってきています。
 この動きに関する情報は勝木会長のお立場によりスピーディーにわれわれのところにも入ってきますので、そういったお得意先さまへSP 商品などのアプローチが可能になり、なおかつ、全国展開しているアルフレッサホールディングス傘下の医療用医薬品卸を通しての販売も可能になるのです。

──アルフレッサ ヘルスケアが、メーカーとしての機能を果たすことになるのですね。

西田 ご指摘の通りです。先般もアルフレッサホールディングスグループの社長会に出席してごあいさつをしたら、「SP 商品、よく売れているよ」「この商品いいね」と多くのグループ企業の社長からお褒めの言葉をいただきました。これも今までの勝木会長のご尽力の積み重ねだと、ありがたく思っています。

──先ほど、新しい杭に入れ替える必要性に言及がありました。具体的には、どの辺が錆び付いていて、どの辺にどういう杭を打たないといけないとお考えですか。

西田 これだけの所帯になると、トップからのさまざまな営業目標に関する指示が各部署間でしっかり共有されておらず、結果として目標達成ができなかったというケースが散見されています。
 これは言い換えれば、“仕組みの錆び付き”みたいなもので、今までの仕組みで実現できないのであれば、その仕組みの在り方を見直さないといけません。古い杭と新しい杭の入れ替えとはそういう意味です。
 それはどこの企業にも共通して言えることですが、当社は当社なりの杭の入れ替えをしていこうということです。当然そこには、時代の流れからいってDX の活用による情報伝達の在り方なども必要になってくると思います。

企業ビジョン“THMW”を深化させDXやAI 駆使した事業に挑戦

──貴社の直近5年間の業績(図表①)を見ると、2020年3月期をピークに売り上げ、収益とも伸び悩みの傾向にあります。この業績の推移をどう評価、分析されていますか。

西田 2020年3月期の局面は、インバウンド需要がピークのときで、それが寄与したことに加え、取引環境の変化や大手企業さまの経営統合というタイミングが重なったことも要因です。
 それ以降はご承知の通り、新型コロナウイルス禍に業界全体が巻き込まれましたから、売り上げの伸び悩みもやむを得なかったと分析しています。

──今後の中長期のビジョンの取り組み課題を教えてください。

西田 当社は10年のスパンで将来を見据えています。親会社のアルフレッサホールディングスが10年後に売上高4兆円、営業利益700億円以上、ROE(自己資本利益率)8%以上という目標数値を掲げていることに歩調を合わせているのですが、当社では具体的な数値目標は公表していないものの、10年後にはこういう企業にしたいというイメージを私なりに持っています。
 そのために今年取り組むこと、来年以降に取り組むことなど、段階的な取り組みテーマを掲げており、今現在でいえば物流の2024年問題を喫緊の課題として取り組んでおります。そうしたテーマに沿って、これからの10年にチャレンジしていきたいと考えています。

──その10年のスパンには、M&A という選択肢は入っていますか。

西田 突然、胸元に直球を投げ込んできますね(笑)。今は考えておりません。当社のゆるぎないビジョンは、現在進行形のTHMW(トータル・ヘルスケア・マーチャンダイジング・ホールセラー)のさらなる深化です。

──あらためて、その趣旨をブリーフしてください。

西田 トータル・ヘルスケアとは未病、予防から治療までの健康総合卸で、すべての人の生涯現役を支援しますということ。マーチャンダイジングは、当社のもつオンリーワンの提案力で消費者、お得意先さま、取引先さまの課題を解決しますということです。当社はそうした取り組みや提案を、全国規模の卸のホールセラーだから実現できます、ということでTHMW を標榜しているのです。
 その一環でDX、AI を駆使したデータビジネスにもチャレンジしたいと考えています。

DgS 業界はまだまだ伸長さらなる発展に共に精励する

──具体的には、どういうビジネスのイメージですか。

西田 収集・蓄積された膨大な情報と、それらを分析することにより得られた付加価値をお取引先さまに提案していきます。一口に情報といっても、商品の課題から財務状況や、従業員満足度まで、さまざまなカテゴリーで、かつ多様化していますから、要望、課題をしっかりヒアリングした上で、お悩みの解決を図ります。
 場合によってはすべてのお悩みをまるごとお引き受けできるような、DX 時代にふさわしいコンサルティングもできる卸を目指したいと考えています。

──情報のマネタイズ化ですね。今までの卸にはなかった発想、ビジネスですね。最後に、先ほど10年後の貴社のビジョンの話が出ましたが、DgS 業界の10年先はどう展望していますか。

西田 よく聞かれるご質問ですが、結論はまだまだ伸びる業界だということです。その理由は、今後さらに少子高齢化で人口減少が進んでいく中、団塊の世代も2025年問題と称されるようにさらに高齢化が進みますが、団塊の世代に限らず、高齢者はおしなべてお元気で健康な方が圧倒的に多い。
 やはり皆さん、健康でありたいと思うから、DgS に足しげく通って健康食品などを購入され、いろいろな方法で健康増進・維持に取り組んでおられます。その団塊の世代の子どもたちが今50歳になっていて、それらの世代もちょうど健康の曲がり角でもあります。そういった中で、医療の2024年問題もあり、医師の働き方改革が行われることでさまざまな制約が出てきます。
 そうなってくると、今までのようなフリーアクセスが通用しなくなる可能性がありますが、当社では新しい制度のキャッチアップに取り組むことで対策を練っているところです。そうした新しい医療環境の中で健康を増進・維持するためには、生活者もDX やAI の情報を駆使しながら、いかにして問題を解決していくのかが迫られるでしょう。

──そこにDgS の果たすべき機能、役割があるということですね。

西田 そういうことだと思います。今は、生活者一人ひとりがセルフプリベンションに取り組む時代です。そうなってくると重要なのが、薬局薬剤師をはじめとするスタッフからのアドバイスを得ながらのセルフコンディショニングチェックです。
 DgS、薬局薬店は数年来、日本チェーンドラッグストア協会などが提唱してきた健康ステーション機能を具備し、実践しなければいけない局面にあるといえるでしょう。当社は今後も社業の発展はもとより、業界の発展に精励してまいります。

──ありがとうございました。

取材後、株式会社ドラッグマガジン社長の安藤俊仁氏(左)より贈呈の花束をバックに