インタビュー

社会インフラを維持する覚悟医療用医薬品の流通を担う

出典:月刊「事業構想」2022年9月号(学校法人先端教育機構事業構想大学院大学出版部)

医療用医薬品卸をメイン事業とするアルフレッサホールディングス(HD)は、2022年5月、2022~24年度までの中期経営計画「未来への躍進~進化するヘルスケアコンソーシアム®」を発表した。絶対に止められない医薬品の流通を担う企業が目指す姿とは。注力テーマや今後の戦略などを、荒川社長に聞いた。

荒川隆治(あらかわ りゅうじ)
アルフレッサ ホールディングス 代表取締役社長
1963年生まれ、名古屋市出身。立教大卒。1987年、山之内製薬(現アステラス製薬)入社。シーエス薬品(現・アルフレッサ)社長、アルフレッサホールディングス取締役などを経て、2020年6月より現職。

大手医薬品卸企業の2つのターニングポイント

2003年に大手医薬品卸2社の共同持ち株会社としてスタートし、2023年には20周年を迎えるアルフレッサHD。連結対象会社16社、グループ全体としては36社の連合体であり、グループ全体での売上高は約2兆6000億円、従業員数はパート社員も含め約1万4000人にのぼる。健康に関する事業領域は多岐にわたり、医療用医薬品等卸売事業、セルフメディケーション卸売事業、医薬品等製造事業、調剤薬局などの医療関連事業の4つのセグメントがある。中でも医療用医薬品等卸売事業が売上の8割以上を占める。 「医薬品を適正な方法で、お得意さまである医療機関へ安心・安全に届ける。その先には薬が必要な患者様がいる。弊社グループの事業は、水道や電気と同じ社会インフラのひとつであるという自負を持ち、私たちは日々仕事に取組んでいます」と同社代表取締役社長の荒川隆治氏は力を込めて述べる。 同社はこの20年弱の間に、2回の大きなターニングポイントを経験した。ひとつ目のターニングポイントは、業界をあげて流通改善の気運が高まった2011年頃。医療用医薬品市場において、売上を追求すれば利益がついてきた時代に終わりの兆しが見え始め、いかにして利益を生み出していくかが問われていた。「当時の先輩方が、それまで売上志向だったグループの営業姿勢を意識改革し、2年かけて利益志向へ変革していきました」と荒川氏は歴史を顧みる。これによりアルフレッサグループは、業界屈指の利益率を誇る会社へと脱皮した。 次のターニングポイントが2019年~20年。アルフレッサグループの医療用医薬品卸を手掛ける事業会社が、医療用医薬品の入札に関する独占禁止法違反の罪に問われた。これは医薬品卸大手4社がかかわる事件で、会社の信頼が大きく失墜した。事件の背景について、荒川氏は「『医療機関、その先の患者さまのために』というのが、私たちの一番の使命ですが、それがいつの間にか売上計画や利益計画達成のために、という数字目標にすり替わってしまった」と振り返る。 徹底した再発防止に加えて、アルフレッサグループの理念「すべての人に、いきいきとした生活を創造しお届けします」を改めて周知徹底している。倫理観や使命感をもう一度見直し、本来目指すべきは数字ではなく、医療機関やそこで治療を受けている患者様の満足であるという原点に立ち返った社員教育を進めているところ。アルフレッサグループは、利益志向だった企業風土から人財志向に再び脱皮した。これからは守るべき倫理や果たすべき使命を理解した上で、企業人としての挑戦力や適応力を育成していく方針だ。 さらに2022年度からはグループ人財要件に専門性を加え、5つの柱で人財育成に取組む。荒川氏は「既に、医薬品等卸売事業の2000人を超える営業担当者が『医療経営士』という資格を取得しました。医療や経営に関する知識・スキルを備えた人財として、地域包括ケアのコーディネーターとして活躍してほしい」と期待を述べた。

36社のシナジー効果を最大に

アルフレッサグループの理念体系にある「私たちのめざす姿」では、「健康に関するあらゆる分野の商品・サービスを提供できるヘルスコンソーシアムをめざします」と謳っている。グループ36社が一丸となり、医療機関とその先の患者様にいきいきとした生活を創造しお届けするというのが、ヘルスケアコンソーシアム®の基本コンセプトだ。 グループの各企業はこれまで自律性が高く、独自の経営方針、営業方針で事業成長を果たしてきた。しかし、各社の経営資源を組み合わせて最大限に活用すれば、グループ全体でより大きな成長が可能となる。今後はグループ各社のパワーを集結し、4つの事業セグメントのシナジー効果の最大化に注力する。荒川氏は「例えば、海外の製薬会社が新薬を携えて日本に進出してきた場合、セグメントを超えてシナジーを最大化し、受託製造から卸流通、調剤薬局における患者様への処方までを一括して提案する。ヘルスケアコンソーシアム®のより具体的なアクションを進めていきたい」と意欲を示す。 また、地域医療に関しては地域包括ケアシステムを下支えしていく。地域全体を1つの病院と捉える地域包括ケアシステムにおいては、地域内のステークホルダーの連携が欠かせない。全国に約220カ所の物流拠点を展開するアルフレッサグループが、地域の病院、診療所、調剤薬局、介護施設、行政、サービス事業者など、地域包括ケアシステムの様々なプレイヤーのつなぎ役となり、さらには医療の個別化、デジタル化、高度化などの社会課題を解決していく。

「マインドシェアNo.1」を目指す

22~24年度の中期経営計画のグループ経営方針では、「DXの展開」にも言及している。既存業務プロセスの効率を向上させる「守りのDX」では、既に経費精算、労務管理、ワークフローなどのシステムを導入し、一定の成果を上げている。一方の「攻めのDX」では、グループのデータを一元管理し、全体最適を可視化することで、データインフォームド経営を実現する。 物流戦略では、2年後の竣工を目指し、グループ最大級の物流センターを茨城県つくば市に建設中だ。医療機関に医薬品等を納品する際の検品の手間を省く「パッケージ納品」システム等の最新設備を導入することで、効率化だけでなく、医療機関の働き方改革も支援し、ここでも社会課題の解決を目指す。荒川氏は「物流の高度化とは別に、医療従事者同士のネットワーク構築に資する様々なデジタルツールにも注力する。まずは医師のネットワーク構築のためのプラットフォームを創り、次は多職種連携も視野に入れ地域包括ケアシステムを支えたい」と展望を明らかにした。

アルフレッサが2年後の竣工を目指すつくば市の物流センター(左)。医薬品は流通にも規制があり、温度・湿度などの品質管理が求められるほか、盗難防止・偽造薬の混入防止などの対策も必要

様々な施策を打ったうえで、同社にはなりたい姿がある。 荒川氏は、「医薬品流通を中心とした真のリーディングカンパニーを目指す。即ち、医療機関の『マインドシェアNo.1になる』という想いがあります」と語る。何かあればまずアルフレッサグループに相談してもらえる顧客との信頼関係をより一層強化することが重要で、売上や利益はその後についてくるという発想だ。 国内の医療用医薬品市場は、国民皆保険の下、国が定めた薬価制度により成り立つ。薬価は毎年改定され、現在約10兆円の同市場の成長率は横ばいの予想だ。加えて、電気やガソリン等のエネルギー価格は高騰し事業のコストに跳ね返る。医薬品卸を取り巻く事業環境は不確実性を増している。 荒川氏は、「新型コロナウイルスにより医療現場は逼迫し、後発品の出荷調整などもあります。事業の現場では通常業務に加え、コロナ関連の配送や後発品の代替品対応など、厳しい環境におかれています。それでも、医薬品を必要とする高齢者の人口が年々増加していく中、安定供給は何を置いてもゆるがせにできない最重要項目。今後も変わることなく地域の医療と健康に貢献していくための取り組みを加速させていきます」と力を込めた。